TECHNICAL NOTES
3種類のRev0基板を初発注し、設計データを公開する — CraftVia開発記録 #5
前回の記事では、CraftViaの開発用ベース基板「Station-S Rev0」へUSB対応を追加し、7ページの回路図と140 mm × 90 mmの4層PCBへまとめるまでを紹介しました。
その後、最初のCoreとなる「Core-S G031」、開発・計測用の「Station-S」、一枚の基板上で回路を試作できる「MakerCard-S」の3種類について、Rev0の設計データを凍結しました。製造用データを最終確認し、JLCPCBへ初回の基板製造を発注しています。
あわせて、これまで掲載していなかったCraftViaのロゴと、ロゴを反映したRev0の最終基板外観を公開しました。設計リポジトリをGitHub上に公開し、プロジェクトサイトcraftvia.orgも公開しています。
今回は、3種類の基板をどのような役割に分けたのか、発注前に何を固定したのか、未検証のRev0をどのような状態で公開したのかを紹介します。
現在の状態
この記事で扱うRev0は、製造用データを凍結して発注した最初のエンジニアリング試作です。記事執筆時点では実機未検証であり、量産向けの完成品ではありません。
最初の製造対象を3種類に分ける
CraftViaでは、小さなマイコン基板だけを単体で作るのではなく、開発、評価、組み込みへ進みやすいように基板ごとに役割を分けています。今回発注したのは、次の3種類です。
| 基板 | 役割 | Rev0で確かめたいこと |
|---|---|---|
| Core-S G031 | STM32G031と必要な周辺回路を25.4 mm角にまとめた最初のCore-S | 電源、SWD書き込み、BOOT、GPIO、Station-Sとの接続 |
| Station-S | Core-Sへの書き込み、電源操作、UART、端子引き出し、電圧・電流測定を行う開発・計測基板 | Coreの開発手順、電源経路、SWD/USB切替、計測と操作性 |
| MakerCard-S | Core-S G031の回路と試作領域を一枚にまとめたリファレンス実装 | 単体での書き込みと動作、ブレッドボード形式の配線、試作領域の使い勝手 |
Core-Sは、動作を確かめた後に装置へ持ち出す小さなマイコン基板です。Station-Sは、書き込みや計測に使う機能を開発机上へ残します。MakerCard-Sは、Coreと同じ回路を使いつつ、周辺回路を直接追加して試せる一枚基板です。
3種類を同時に製造することで、ソケットで接続するCoreとStationだけでなく、単体のMakerCardでも共通回路と端子の考え方を確認できます。
CraftViaという名前とロゴ
これまでの開発記事では、回路や基板設計を中心に紹介し、CraftViaのロゴや最終的なブランディングは掲載していませんでした。
CraftViaの「Craft」には、手を動かしてものを作ることと、試作を重ねながら、より良いものを目指す姿勢を込めています。
「Via」は、PCBの層と層をつなぎ、信号や電源の経路を通すビアを表しています。同時に、ものづくりを通じて人や知識がつながり、そこから新しい発見が生まれることも意味します。ワードマークでは、CraftViaのiの点を一つのビアとして表現しました。
iの点に置いた金色の円が、名称に含まれるビアを視覚的にも表しています。アイコンは、複数のビアと配線によって形作られたホップをイメージしています。
日本語で「クラフトビア」と読むと、「クラフトビール」を思わせる響きがあります。ものづくりを成果だけで捉えるのではなく、クラフトビールを味わうように、その過程を楽しみ、語り合い、コミュニティの中で育てていきたい。ホップのアイコンには、そんな少し遊び心のある思いも込めています。
ブランドカラーの緑は、PCBのソルダーマスクとホップの色を表しています。アイコンに使う金色は、クラフトビールの色であると同時に、ENIG仕上げなどで見られる基板の金色にもつながっています。画面上のグラフィックだけでなく、基板の構造や製造工程そのものを生かして表現できるロゴを目指しました。
CraftViaは、作ることと、つながること。その間に生まれる発見や楽しさを、開かれた形で共有していくためのプロジェクトです。
ロゴを含む最終外観を公開する
今回、名称とロゴの方針を固め、製造へ渡すRev0の基板設計を固定したため、最終レンダリングを公開します。
基板上のロゴは、どのプロジェクトに属する設計かを示す識別にも使います。各基板にはRev0表記を付け、今回の製造対象を識別できるようにしています。
Rev0として固定したもの
基板を発注した後に設計データを更新してしまうと、手元へ届く基板と公開ファイルの対応が分からなくなります。そこで今回は、発注に使う状態をv1-rev0として固定し、各リポジトリへ記録しました。
固定した主な内容は次のとおりです。
- 編集可能なEasyEDAプロジェクト
- Gerberとドリルを含むPCB製造パッケージ
- BOM(部品表)
- 部品実装位置データ
- 回路図とPCBの参照用PDF
- 製品固有の仕様書と検証計画
- リリースノート
- ファイル同一性を確認するSHA-256チェックサム
3基板とも、PCBの厳密DRCはエラー0件まで確認しています。ただし、DRCは設計ルール上の問題を検出するもので、実際の電源品質、書き込み、USB通信、部品の実装性、ソケットの挿抜性まで保証するものではありません。
そのため、設計状態はFrozen、検証状態はUnverified、ハードウェア状態はBoards orderedとして分けて記録しています。
| 表示 | 意味 |
|---|---|
| Frozen | 発注に使った設計内容を固定している |
| Unverified | 仕様は定義済みだが、対象の実機では未確認 |
| Boards ordered | 基板を製造業者へ発注済み |
この3つの状態を分けることで、どの工程まで進んでいるかを追えるようにしています。
JLCPCBへ製造データを送る
初回基板はJLCPCBへ発注しました。各リポジトリのfabricationディレクトリに置いたGerber ZIPを使い、製造画面のプレビューで外形、銅箔層、ソルダーマスク、シルク、穴を確認してから注文しています。
とくに確認したのは、次の点です。
- 2層基板ではなく4層基板として認識されていること
- 外形寸法と角丸が設計どおりであること
- スルーホール、ビア、非メッキ取付穴が意図した種類で認識されていること
- 表裏のシルクとソルダーマスク開口が表示されること
- 基板外に意図しない銅箔や穴がないこと
- 製造画面の向きと、基板上の文字やコネクタ位置が一致すること
今回は、まず裸基板を製造し、到着後に外観と導通を確認しながら実装を進めます。BOMと部品実装位置データも公開していますが、Rev0には手実装するスルーホール部品や実装しないオプション部品が含まれます。そのため、もしPCBA(基板実装)で発注する場合には、 公開した座標データをそのまま使うのではなく、BOMの実装対象と照合する必要があります。
GitHubでは製造できるデータまで公開する
CraftViaのGitHub Organizationでは、プロジェクト共通の文書と、製品固有の設計データを分けています。
| リポジトリ | 公開内容 |
|---|---|
craftvia-docs | プロジェクト概要、用語、バージョンと状態、Core-S共通インターフェース、互換性方針、Getting Started |
craftvia-core-s-g031 | Core-S G031固有の設計ソース、製造データ、仕様書、検証計画 |
craftvia-station-s | Station-S固有の設計ソース、製造データ、仕様書、検証計画 |
craftvia-makercard-s | MakerCard-S固有の設計ソース、製造データ、仕様書、検証計画 |
craftvia-web | craftvia.orgのソースコード |
公式文書は英語を正本とし、同じフォルダに.ja.mdを付けた日本語翻訳を置いています。AKSの技術ノートは日本語で開発過程や判断を説明し、GitHubでは第三者が設計状態を確認しやすい形で仕様と製造データを管理する、という役割分担です。
ハードウェア3製品にはv1-rev0タグを付け、GitHub ReleasesではPre-releaseとして公開しました。タグは今回発注したデータを指す固定点です。到着後に文書を改善しても、このタグを別の設計へ動かさない方針としています。
各Rev0の公開ページは次のとおりです。
基本動作確認前でも、状態を明示して公開する
最初のCraftVia記事では、初号機の基本動作を確認した段階で設計データをGitHubへ公開する予定としていました。今回は、その予定を少し変更し、製造発注に使った時点で公開しています。
理由は、実機検証前の状態も含めて、どの設計を製造し、これから何を確認するのかを追えるようにするためです。届いた基板で問題が見つかった場合にも、Rev0の設計、検証計画、結果、次の改版を分けて残せます。
README、仕様書、リリースノート、Webサイトにも設計・検証・製造の状態を記載し、公開データを検証の基準点として共有しています。
craftvia.orgはプロジェクトの入口にする
craftvia.orgは、CraftViaが何を目指しているか、Core、Station、MakerCardがどのような関係かを短く把握するための入口として作りました。
各製品の概要と現在の開発状態も、このサイトで案内します。技術仕様や設計・製造データは各GitHubリポジトリで管理し、サイトから参照できるようにしています。
情報の役割は、次のように分けています。
- AKS技術ノート:設計の背景、判断、開発過程を日本語で紹介する
- craftvia.org:プロジェクト全体と現在の製品を案内する
- GitHub:仕様、設計ソース、製造データ、変更履歴を管理する
Webサイトは英語版を基本とし、日本語版も用意しています。技術ノートはこれまでどおりAKSサイトで公開し、CraftViaの公式情報からもたどれる構成にしています。
オープンな設計とロゴの扱いを分ける
ハードウェア設計ソースと製造データには、CERN Open Hardware Licence Version 2 - Permissive(CERN-OHL-P-2.0)を適用しています。ソフトウェアはApache-2.0、文書はCC-BY-4.0とし、対象ごとの扱いをライセンス方針(日本語参考訳)にまとめています。個別ファイルにライセンス表示がある場合は、その表示を優先します。
CraftViaの名称とロゴなどのブランド資産は、これらのオープンライセンスによる使用許諾の対象には含めず、商標ポリシー(日本語参考訳)で扱います。公式Releaseを改変せず、個人利用、組織内利用、教育、研究、評価などの非商用目的で製造する場合は、製造データに埋め込まれたロゴを残したまま基板製造サービスへ発注できます。
一方、CraftViaの名称やロゴなどの標章を付したハードウェアの販売、商用頒布、有料の製品・サービスへの組み込みには、事前の書面許可が必要です。標章を削除し、必要なライセンス表示と著作権表示を保持して公式品と誤認されない形にすれば、適用ライセンスに従って改変や商用販売もできます。
これは設計の利用を閉じるためではなく、公式品や検証済み製品であるとの誤認を防ぐためです。設計を利用できる範囲と、名称・ロゴを使って公式性を示せる範囲を分けています。
基板が届いたら確認すること
次の工程は、届いた基板の受け入れ、実装、初回通電、書き込み、各機能の確認です。
最初からすべてを接続せず、次の順序で進める予定です。
- 外形、穴、シルク、ソルダーマスク、基板の反りを目視確認する
- 電源とGND、隣接端子、試作領域の導通と絶縁を確認する
- 電源回路から段階的に実装し、電流制限を設定して通電する
- Core-S G031へSWDで書き込み、RESET、BOOT、GPIO、UARTを確認する
- Core-SとStation-Sの端子、ソケット、ジャンパー設定を確認する
- Station-SのUSB-C給電とUSB経路、DCDC、VCP、ブレークアウト、操作部を確認する。USB通信は、対応Coreを用意した段階で検証する。
- INA226で電圧・電流を取得でき、動作状態の変化を観察できることを確認する
- MakerCard-Sの電源レール、ブレッドボード形式の列、試作領域を確認する
INA226について、Rev0では高精度な校正や測定確度の保証までを目標にしません。現状の設備で確認できる範囲として、電圧・電流を読み出せること、外部計器と大きく矛盾しないこと、Coreの動作状態による変化を観察できることを確認します。
問題が見つかれば、Rev0の記録を残したままIssueや検証結果へ追記し、回路、フットプリント、配線、シルクなどの変更は次のRevisionへ反映します。
設計を製造へ渡し、公開しながら検証する段階へ
CraftViaは、構想と回路図から始まり、Core-S G031、Station-S、MakerCard-Sの3種類を実際に製造する段階へ進みました。ロゴを含む基板外観、共通仕様、製品固有仕様、編集可能な設計ソース、製造データを公開し、今回発注した状態をv1-rev0として残しています。
完成してから結果だけを公開するのではなく、製造前の判断、最初の失敗、修正の理由も含めて追えるようにする。CraftViaを、公開しながら育てていきます。
次回は、JLCPCBから届いたRev0基板の外観確認、実装、初回通電と書き込みについて紹介する予定です。
CraftViaのプロジェクト情報と公開データ:
AKSでは、CraftViaの開発で得た知見も活用しながら、マイコン、電子回路、ソフトウェア、実装、計測を含む試作・技術開発を支援しています。