TECHNICAL NOTES
欲しいマイコン開発キットを形にする — CraftViaの立ち上げと初期回路設計
マイコンで作りたいものがある。開発ボードとブレッドボードで動作を試すところまでは進められる。でも、そこから自分の装置へ組み込もうとすると、基板の大きさ、配線の固定、電源、書き込み用の接続を改めて考えることになります。
開発ボードごと組み込むか、マイコンを載せた専用基板を作るか。一台だけ作りたい場合にも、試作から実装へ進むための作業が必要です。
作りたい装置の機能に取り組むまでに、その土台を整える作業が積み重なる。この負担を減らし、試作した回路を実機へつなげやすくしたいと考えたことが、CraftViaの出発点です。
開発に使う配線・書き込み・計測の環境は手元に残し、動作を確かめた小さなマイコン基板を装置へ持ち出せる。そんな開発キットを目指し、AKSで「CraftVia(クラフトビア)」というプロジェクトを始めました。
現在は、基本構想を整理し、最初のマイコンモジュールの仕様と回路図初稿をまとめた段階です。今回は、何を目指しているのか、構想をどのように仕様へ落とし込んだのかを紹介します。
作りたい機能の前に、毎回必要になる準備
例えば、センサーの値を読み取り、記録する小さな装置を作る場合を考えます。本来試したいのは、何を測るか、どの間隔で記録するか、どう表示するかという部分です。
ところが、マイコンを使う土台として、電源やリセット、書き込み用の接続、周辺部品を揃える必要があります。動作がおかしければ、プログラムの問題なのか、配線や電源の問題なのかを切り分けます。消費電流を調べたいときには、測定できるように接続を変える作業も発生します。
開発ボードはこうした準備を助けてくれますが、実際の装置へ収める段階では別の条件が出てきます。基板を小さくしたい、開発用のコネクタやスイッチは装置に残したくない、けれど一台の試作のために専用基板を作るところまでは進めたくない。その間を扱いやすくしたいと考えました。
AIで広がった開発の選択肢と、実物を扱うための環境
この構想の背景には、AIを使った開発支援の進歩もあります。資料の読解やコード作成の支援を受けながら、クロック設定、割り込み、低消費電力動作など、マイコン固有の機能まで踏み込んだファームウェア開発に取り組みやすくなったと感じています。Arduinoのような環境でアイデアを素早く試すだけでなく、必要に応じて内部の設定を理解し、装置の条件に合わせて調整する選択肢も広がっています。
一方で、AIの支援でファームウェアを作りやすくなっても、実物の電源や配線、書き込み経路を整える作業は必要です。生成されたコードが意図どおりに動くかも、実際の入出力、波形、消費電流などで確かめる必要があります。
CraftViaで共通化したいのは、このハードウェア側の準備と検証です。開発中に人が使う機能をStationへ、装置の中で動かす基本回路をCoreへ分け、試作時には両方を使い、実装時にはCoreを移す構成を考えました。
Core、Station、Carrierという構成
CraftViaでは、それぞれの役割を「Core」「Station」「Carrier」と呼んでいます。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| Core | マイコンと、その動作に必要な基本回路をまとめた小型モジュール。試作から実機への組み込みまで使う部分です。 |
| Station | Coreを装着し、配線、書き込み、デバッグ、給電、計測を行う開発環境です。 |
| Carrier | Coreを実際の用途で使うための回路や基板。センサー、表示器、駆動回路などを接続する実装先です。 |
Stationでは、中央のCoreを囲むように配線・試作の領域を設け、周辺回路を試せる構成を考えています。PCからの書き込みやデバッグに加え、電圧・電流の測定やログ取得も扱える、小さな開発・評価環境を目指します。
動作を確認できたら、電源を切ってCoreを取り外し、用途に合わせたCarrierへ移します。Carrierは専用に設計した基板に限らず、ユニバーサル基板に部品を載せて手配線したものも想定しています。
構想図には、センサー、計測表示器、ロボットアーム、モーター、植物の自動水やりを描きました。身近な工作から実験装置や治具まで、それぞれが作りたいものにつなげられる開発プラットフォームにしたいと考えています。
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試作し、検証し、組み込む。この流れをつなぐことが、CraftViaの中心にある考え方です。
Coreを使った先の選択肢も残す
構想を整理する中で、「マイコンの基本回路を小さな基板にまとめることに、どれだけ意味があるのか」という点も考えました。専用基板を設計するなら、マイコンと周辺回路を直接載せる方法があります。
しかし、CraftViaでは、専用基板を作る前の試作や、少数の装置を製作する段階で扱いやすいことを重視しています。 まずはCoreで動作を確かめ、そのまま実機へ組み込む。台数や大きさの条件が変われば、マイコンを専用基板へ直接載せる設計へ進む。その際にも、回路やソフトウェア、検証で得た知見を引き継げる形を目指します。
回路図や設計データだけでなく、設計上の判断、測定条件、分かった制約も記録し、オープンハードウェアとして公開していく方針です。AKSの試作・検証でも使いながら、個人や小規模なチームにも役立つものへ育てたいと考えています。
最初はSTM32から、MCUの種類を越えて使えるプラットフォームへ
最初のCoreには、STM32G031K8T6を採用しました。まずはこのマイコンで、Coreの回路と接続方法を具体化し、試作・検証・組み込みという流れを確かめていきます。
CraftViaが目指しているのは、MCUの種類によらず、この開発の流れを支えられるハードウェア開発プラットフォームです。用途に合うマイコンを選び、そのCoreを開発環境で試し、実機へ移す。将来はSTM32以外のMCUも視野に入れながら、この考え方を広げたいと考えています。
最初の仕様を決める
最初に具体化したのは、小型Coreの共通規格「Core-S」です。手配線やユニバーサル基板での利用を考え、接続には2.54 mmピッチを採用しました。
現在の初期仕様は、次のとおりです。
| 項目 | 初期仕様 |
|---|---|
| 基板外形 | 25.40 mm × 25.40 mmの正方形 |
| 接点ピッチ | 2.54 mm |
| 接点構成 | 4辺に各8接点と、三隅の電源・向き識別用接点。合計35接点 |
| 電源・信号の基準 | 3.3 V系 |
| 最初に設計するCore | STM32G031K8T6を搭載するCore-S G031 |
正方形の4辺に接点を配置することで、Station側では周囲へ信号を展開し、Core単体では2.54 mmグリッドの実装先へ接続できる構成を考えています。三隅の接点は電源供給を担い、ソケットと組み合わせて装着方向を決めるためにも使います。実際の挿抜のしやすさや保持方法は、これから確認します。
また、共通にする範囲も整理しました。現在のCore-Sでは、外形や接点位置、電源を共通規格として定め、STM32実装向けに書き込み・デバッグ用のシステム端子を定義しています。通信やアナログ入出力などの割り当ては、搭載するマイコンに合わせて個別に決めます。同じ形のCoreであっても、用途側の配線をそのまま流用できるとは限らないためです。
Core-S G031は、小規模な制御、センサー入出力、ロガー、治具などを想定した最初の実装です。このCoreを通して、Core-Sの接続方法や開発の流れを検証していきます。
仕様を初期回路図へ落とし込む
仕様をもとに、Core-S G031の回路図初稿をまとめました。
初期設計では、マイコン本体、電源を安定させるためのコンデンサ、リセット回路、書き込み・デバッグ用の接続、外部へ引き出す端子を整理しています。Core単体でも書き込みや調査ができるよう、デバッグ用の接点も設ける方針です。
設計では、特に次の点を意識しました。
開発時に使う機能をStationへまとめる
CoreにはUSBコネクタや開発専用デバッガを載せず、Station側で受け持つ構成にしています。Coreを装置へ移したときに、開発専用の部分まで一緒に組み込む必要がないようにするためです。
基本構成を小さく保ち、検証の余地を残す
標準では内部クロックを使う構成とし、外部発振器を使用する場合の実装オプションも回路図に含めました。必要な機能を部品の実装で選べるようにしつつ、クロックや電源の条件を試作後に評価できる形にしています。
マイコン固有の条件を共通規格へつなぐ
G031の回路では、書き込み・デバッグと起動モードの選択に関係する信号の扱いも検討しています。Core側の回路だけでなく、Stationからどのように操作するかまで整理する必要がある部分です。
接続と操作の手順、ファームウェアの設定を合わせて確認することも、今回の設計で扱う課題になっています。
初期回路図をまとめ、実物での検証へ
ここまでで、CraftViaの基本構想、Core-Sの初期仕様、Core-S G031の回路図初稿をまとめることができました。
現時点では、基板の配置・配線、製作、実機での動作確認はこれからです。回路図にも確認・調整を残しており、製造用の確定設計ではありません。Stationの具体的な回路や計測方式も、今後詰めていきます。
次は回路図に残る確認・調整事項を整理した後、CoreのPCB設計へ進む予定です。部品や接点が想定した大きさに収まるか、配線やデバッグ接点を扱いやすく配置できるかを確かめ、その後の試作では起動、書き込み、入出力、消費電流などを実測します。
CraftViaは、欲しい開発環境を自分たちで形にするところから始まったプロジェクトです。 設計データやファームウェアなどは、初号機のCoreとStationで基本動作を確認した段階で、GitHubに公開する予定です。 公開までの開発過程は、この技術ノートで順次紹介していきます。
AKSでは、CraftViaの開発で得た知見も活用しながら、マイコン、電子回路、ソフトウェア、実装、計測を含む試作・技術開発を支援しています。